水圏環境教育研究会会長挨拶

代表理事挨拶 東京海洋大学 教授 佐々木剛

   2019年、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は「変化する気候下での海洋・雪氷圏に関するIPCC特別報告書」をまとめました。近年の数十年にわたる地球温暖化の影響で、氷床、氷河の質量が大幅に減少し、2300年には海面が最大5.4m上昇するだけでなく、100年に一度起きるような海面水位の極端現象が、熱帯においては2050年までに頻繁に(多くの場所において1年に1回以上)起こると予測しています。このまま推移すれば、世界中の大都市が海抜の低い沿岸域に分布していることから,近い将来移転を余儀なくされることになるでしょう。

 このような状態を回避するため,国連は2021年から2030年までを「持続可能な開発のための海洋科学の10年(国連海洋科学の10年)」と定め,研究者のみならず一般市民,民間企業,政府機関などのマルチステークホルダーが一丸となって取り組もうと呼びかけています。同時に,IOCユネスコ(ユネスコ政府間海洋学委員会)は,「国連海洋科学の10年」の目標達成に向け,海洋と人類との相互作用を理解し,活用する能力,すなわち海洋リテラシー教育を全世界で展開すると発表しています。

 海洋リテラシー教育を推進するにあたり強調したいことは,あらゆる立場の人々が,課題解決のために内発的動機づけを高め,地球規模の環境問題を「自分事」として捉え行動すること,そしてそのための環境教育プログラムを開発・実践し評価を行うリーダーの人材育成ならびに人材の配置を一刻も早く達成すべきだ,ということであります。

 水圏環境教育は,「身近な水圏環境を観察し,その諸問題について人々とともに考え,総合的知識である水圏環境リテラシー基本原則を理解し,広い見識に基づいた責任ある決定や行動をとり,それらをより多くの人々にわかりやすく伝えることができる人材の育成」を目的とし,これまで数多くの実践研究の蓄積を行ってきました。水圏環境リテラシーとは,私達人間と水圏環境との相互作用を理解し活用する能力であり,海洋リテラシーとほぼ同義ですが,伝統知や在来知など地域性を加えているところに大きな特徴があります。

 水圏環境教育研究は,これまであまり学術研究の対象とはならなかった水圏環境現場での水圏環境と学習者の学びとそれらの相互作用に焦点を当てて実践研究を行っています。

 その成果の一部が,IOC-ユネスコが発行する「海洋リテラシーツールキット」に紹介されています。また,2021年10月には,これまで行ってきた運河学習を含め本研究室が取り組んできた水圏環境教育活動が,「国連海洋科学の10年」の正式なプロジェクトとして認定,採択され,世界的にも評価されております。これもひとえに,会員をはじめとしました多くの皆様のおかげです。この場をお借りして御礼申し上げます。

 最後になりましたが,皆様のご健勝とご多幸を祈念いたしますとともに,引き続きましてご支援ご協力のほどお願い申し上げまして,ご挨拶と致します。